تسجيل الدخول神崎家の四人が同じ場所に揃ったからといって、七年前の続きをそのまま始められるわけではなかった。
父の正彦は七年分老い、母の由美子は以前より髪を短くしていた。美咲は高校生ではなく、自分より幼い子供たちを守って山中を歩ける大人になっている。そして蓮自身も、見た目こそ二十八歳前後でも、異世界で二十二年を過ごし、家族の誰も知らない人生を背負って帰ってきた。
それでも、四人で狭い医療保管区画の床へ座り、保存食を囲んでいると、不思議なほど昔と変わらない瞬間が混じった。
「だから蓮、その缶詰は美咲に先に渡しなさい」
由美子に言われ、蓮は手に持った鯖の缶詰を見た。
「何で?」
「美咲は右腕を怪我してるでしょう」
「怪我してると鯖が優先されるの?」
「栄養が必要なの」
「俺も肩撃たれてるんだけど」
「あなたは元気そうだから
第43話 四人家族 神崎家の四人が同じ場所に揃ったからといって、七年前の続きをそのまま始められるわけではなかった。 父の正彦は七年分老い、母の由美子は以前より髪を短くしていた。美咲は高校生ではなく、自分より幼い子供たちを守って山中を歩ける大人になっている。そして蓮自身も、見た目こそ二十八歳前後でも、異世界で二十二年を過ごし、家族の誰も知らない人生を背負って帰ってきた。 それでも、四人で狭い医療保管区画の床へ座り、保存食を囲んでいると、不思議なほど昔と変わらない瞬間が混じった。「だから蓮、その缶詰は美咲に先に渡しなさい」 由美子に言われ、蓮は手に持った鯖の缶詰を見た。「何で?」「美咲は右腕を怪我してるでしょう」「怪我してると鯖が優先されるの?」「栄養が必要なの」「俺も肩撃たれてるんだけど」「あなたは元気そうだから後」「判断雑じゃない?」 美咲が横から缶詰を取った。「じゃあ私もらうね」「待てよ。今の会話で俺に返そうとは思わなかった?」「全然」「七年ぶりの兄にもう少し優しくしてもいいだろ」「七年いなかった兄に?」「そこ持ち出されたら何も言えない」 正彦が蓋を開けた別の缶詰を見ながら、少し笑った。「昔からそうだったな。蓮は家に帰ってくると、冷蔵庫の中の物を自分のものみたいに食べる」「家族の冷蔵庫なんだからいいだろ」「それで美咲のプリン食べた」「またその話?」 美咲が鯖を箸でほぐしながら言った。「それは一生言うよ。私、名前書いてたからね」「小学生の名前シールみたいに書くからだろ」「名前があっても食べる
第42話 七年ぶりの妹 美咲が救出されたと聞いてから、実際にその姿を見るまでの十分間は、神崎蓮にとって、これまで経験したどの戦闘よりも長く感じられた。 M-01の追撃を振り切り、高城たちが確保した退路へ入ってからも、蓮は何度も前方へ視線を向けた。美咲は先に美奈たちと移動していると分かっている。それでも、人影が見えるたびに妹ではないかと思ってしまう。「走るなよ」 隣を歩く冬真が言った。「走ってない」「今、三回くらい速度を上げた」「そんな細かいところまで見てるの?」「お前は分かりやすい」「今日だけで何回それ言われるんだろ」 蓮は苦笑した。 敵の追撃が完全に途切れたわけではない。後方では高城たちが警戒を続けており、M-01が再び姿を現す可能性も残っている。それでも、美咲がいる場所まであと少しだと思うと、意識の半分以上がそちらへ持っていかれる。「会ったら何を言う」 冬真が不意に聞いた。「知らない」「昨日から散々考えていたんじゃないのか」「考えてた。でも、実際会うとなると何も出てこない」「謝るんだろう」「それは言う」「それ以外は」「だから分からないって」 蓮は少し考えてから続けた。「たぶん、顔見たら何か出ると思う」「随分曖昧だな」「家族ってそういうもんじゃない?」「俺に聞くな」 冬真の声がわずかに低くなったため、蓮はそれ以上聞かなかった。 やがて通路の先に、人が集まっている場所が見えた。 簡易照明が設置され、その下で美奈が誰かの腕へ包帯を巻いている。高城の部下が数人、周囲を警戒しながら立っていた。
第42話 七年ぶりの妹 美咲が救出されたと聞いてから、実際にその姿を見るまでの十分間は、神崎蓮にとって、これまで経験したどの戦闘よりも長く感じられた。 M-01の追撃を振り切り、高城たちが確保した退路へ入ってからも、蓮は何度も前方へ視線を向けた。美咲は先に美奈たちと移動していると分かっている。それでも、人影が見えるたびに妹ではないかと思ってしまう。「走るなよ」 隣を歩く冬真が言った。「走ってない」「今、三回くらい速度を上げた」「そんな細かいところまで見てるの?」「お前は分かりやすい」「今日だけで何回それ言われるんだろ」 蓮は苦笑した。 敵の追撃が完全に途切れたわけではない。後方では高城たちが警戒を続けており、M-01が再び姿を現す可能性も残っている。それでも、美咲がいる場所まであと少しだと思うと、意識の半分以上がそちらへ持っていかれる。「会ったら何を言う」 冬真が不意に聞いた。「知らない」「昨日から散々考えていたんじゃないのか」「考えてた。でも、実際会うとなると何も出てこない」「謝るんだろう」「それは言う」「それ以外は」「だから分からないって」 蓮は少し考えてから続けた。「たぶん、顔見たら何か出ると思う」「随分曖昧だな」「家族ってそういうもんじゃない?」「俺に聞くな」 冬真の声がわずかに低くなったため、蓮はそれ以上聞かなかった。 やがて通路の先に、人が集まっている場所が見えた。 簡易照明が設置され、その下で美奈が誰かの腕へ包帯を巻いている。高城の部下が数人、周囲を警戒しながら立っていた。
第41話 偽物の勇者『境界切断』 人工音声が告げた直後、M-01の剣から放たれた黒い線が、旧実験区画前の空間を一直線に裂いた。 蓮は避けなかった。 正確には、避けるという判断を取る余裕がなかった。 機械が構えを完成させた瞬間、その一撃がこれまでの模倣とは明らかに違うと分かったからだ。切断する対象を大雑把にまとめていた以前の攻撃ではない。蓮が《境界断ち》を使う時と同じように、物質と空間、魔力障壁とその外側を別々に認識した上で、一つの線へ束ねている。「冬真、真正面は無理だ!」「言われなくても分かる!」 二人は同時に左右へ散った。 次の瞬間、黒い切断線が二人のいた場所を通り過ぎ、背後の岩壁へ食い込んだ。 轟音はなかった。 むしろ、その静かさが不気味だった。 厚い岩盤は爆発したわけでも砕けたわけでもなく、最初から二つの別々の物だったかのように滑らかにずれ落ちた。さらにその向こうに設置されていた古い防護板まで同時に切断され、遅れて金属が地面へ落ちる音が響く。 蓮はその断面を見て、思わず奥歯を噛んだ。「……近い」 冬真が問い返す。「何がだ」「俺の《境界断ち》に。威力だけじゃなくて、切り分け方まで近づいてる」 認めたくない。 けれど、否定しても仕方がない。 昨日までのM-01は、境界というものを無理やり引き裂いていた。だから攻撃は強くても粗く、蓮から見れば「似ているだけ」の技だった。 今の一撃には、選別がある。 切るべきものと、切らなくていいものを分けようとしている。 そこまで学んだ。 ほんの数回の戦闘で。「気分悪いな」 蓮
第40話 機械の勇者 美咲を迎えに行く朝、神崎蓮は目覚ましが鳴るより二十分も早く目を覚ました。 眠れないだろうと思っていたわりには、意外なほど深く眠っていたらしい。身体を起こして肩を回してみると、連日の戦闘で積み重なっていた重さが少しだけ抜けている。美奈から「最低でも六時間は寝ろ」と言われた時には長すぎると思ったが、今となっては素直に従っておいて良かったと認めざるを得なかった。 もっとも、それを本人へ言えば今後も何かあるたびに寝かされそうなので、黙っておくことにした。 まだ薄暗い医療保管区画では、すでに何人かが起きていた。高城は地図を見ながら伊藤と最終経路を確認しており、冬真は少し離れた場所で千尋から斥候報告を聞いている。 蓮が装備を整えていると、背後から正彦が声をかけた。「剣、忘れるなよ」「さすがに忘れないよ。小学生の遠足じゃないんだから」「お前は昔、修学旅行の日に財布を忘れた」「あれは中学だろ」「覚えてるなら忘れるな」 父親というものは、二十二年ぶりに会った息子に対しても、驚くほど昔の失敗を覚えているらしい。 蓮が苦笑しながら剣を腰へ固定していると、今度は由美子が保存食と水を持ってきた。「これも持っていきなさい」「もう配給分もらってるよ」「途中で長引いたらどうするの。美咲だってお腹空かせてるかもしれないでしょう」「だったら美咲の分だけでいいって」「あなたの分も入ってるの」「母さん、俺もう四十年以上生きてる計算になるんだけど」「私から見たら二十八でしょう。何歳だろうと息子は息子よ」 どうやら異世界で二十二年生きた程度では、母親の扱いは変わらないらしい。 蓮は少し呆れながらも荷物を受け取った。「帰ってきたばかりなのに、また出ていくの
第39話 再会まであと一日 神崎蓮が父と母の姿を自分の目で確認できたのは、美咲との通信が切れてから一時間ほど後のことだった。 旧山岳地下備蓄庫の医療保管区画へ続く通路には、人工魔法型との戦闘で破壊された機械兵がいくつも転がっていた。共同捜索班は高城を先頭に慎重に進み、閉ざされていた防火扉の前で合図を送った。「こちら外部救助班。神崎正彦さん、聞こえますか」 高城が扉へ向かって声をかけると、内側からしばらく物音が続いた。「合言葉は?」 聞こえてきたのは正彦の声だった。 蓮は思わず笑った。「父さん、そこまで疑う?」 扉の向こうが静かになる。「……蓮か?」「そうだよ」「証明しろ」「さっき車の傷の話しただろ」「それは通信で聞かれている可能性がある」「慎重すぎない?」「お前たちが今までAIに騙されすぎなんだ」 高城が横で小さく頷いた。「親父さんが正しい」「何で俺だけ責められてるの」 結局、正彦が追加で出した質問は、蓮が中学生の頃に母へ隠して買ったゲーム機をどこへ隠していたかという、あまりにもどうでもいい内容だった。「父さんの工具箱の裏」「何で俺の工具箱だった」「母さん、俺の部屋は探すと思ったから」「当時から迷惑な奴だな」「自分の息子に言う?」 内側で何かが外される音がして、重い防火扉が少しずつ開いていった。 最初に見えたのは正彦だった。 蓮の記憶にある父よりずっと痩せ、頬には深い皺が増えている。髪にも白いものが混じり、右腕には応急処置の包帯が巻かれていた。







